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藤山寛美没後20年「二月喜劇特別公演」


 2010年2月19日、大阪松竹座にて、「藤山寛美没後20年二月特別公演」昼の部をを観てきました。出し物は寛美さんが生前やっていた「女房のえくぼ」と「幸助餅」の2本で、出演は藤山直美さんをはじめ、松竹新喜劇のいつものみなさんとゲスト出演の田村亮さんです。

 昨年の2月以来、直美さんのお芝居が関東でなかなか打たれませんでしたので、しびれを切らしての関西行きです。(笑) 席は1階の最前列の通路角でしたので俳優さんのお顔がよ〜く見えました。久し振りの直美さんのお芝居だったので、どんな感じかやや不安だったのですが、始まってみればすぐお芝居に引き込まれて、笑って泣いての2時間半、大満足でした。

 特に最初のお芝居「女房のえくぼ」は感激しました。
運送会社の社長(曾我廼家文童)は昔、惚れた美人の女性に振られてしまいましたが、そのときライバルの男にドブに突き落とされたつらい経験を持ちます。そのドブに落ちた社長を助けたのが佐知子さん(藤山直美)でした。社長は失意のどん底でしたが、社長の妹夫婦のはからいで二人は夫婦になりました。しかし社長は「こんな女といっしょにはなりたくなかったんだ!」と、、見た目が美人ではなく女気のない佐知子さんを邪険に扱います。佐知子さんはそれでも会社を盛り立てて働き文句も言わず頑張っていました。社長の妹夫婦がそれを見かねて佐知子さんにもう少し女っぽく女房らしく振舞うようにアドバイスします。

 女気のない佐知子さん(藤山直美)が、必死になってかわいい女房になろうとするその姿!もう、可笑しくて可笑しくて、お腹がよじれてしまいました!!旦那様の呼び方も「あなた・・・」と呼ぶはずが、「あ〜は、あ〜はぁ〜!」とコンニャクみたいになってしまうし、愛情を体で表そうとしても、相撲力士の土俵入りになってしまうし(笑)、旦那様の体を揉み解そうとやさしく手を取っても、最後は投げ飛ばしてしまう始末!(笑)

 しかし、ある人物が社長の会社で働きたい、と現れてから状況は一変します。その人物とは、あの、昔惚れた女と駆け落ちした、憎らしいライバルの男でした。社長はここぞとばかり、雇って、こき使って、仕返ししてやろうと、いきり立ちましたが、この男と惚れた女のその後の成り行きを聞くにつけ、女の正体がだんだん見えてきました。昔惚れた女はライバル男の金がなくなると次の男に乗り換えて去って行ったのです。しかもそれ以前の男との間に子供がいたのに、そんなことはないように振舞っていたのです。

 ライバルの男は言いました。「自分は本当にみじめな思いをしました。でも社長はドブに落ちたことでそのみじめな思いをしなくて済んだのです。人間は顔だけじゃありません。あなたを支える奥さんがいてくれて、こんなに幸せなことはありませんよ!」と・・・。その言葉を聞いているときの社長(曾我廼家文童)の表情をずっと見ていたのですが、自分がいかに馬鹿だったか、本当に大切なものは何なのか、をじっくり味わっているようでした。その演技も良かったですが、急に社長が佐知子さんにやさしくなったときの佐知子さん(直美)のリアクションが面白い!おもしろい!可笑しすぎてか、良かったねと思うのか、両方の気持ちが相混ざって涙が溢れ出てきました。

 これが松竹新喜劇の真骨頂だと感じました。寛美さんもきっとこういうお芝居をやってきたのでしょうし、直美さんもこれを伝承していきたいと思っているのでしょう。カーテンコールの中でも彼女はそう言っていましたし、お芝居のパンフレットの中の紹介でも、「自分は喜劇という聖火を持って走っている」と言っているそうです。

 ふたつめの「幸助餅」も涙を誘う人情噺です。
相撲好きの餅屋の旦那さん(田村亮)が贔屓をやり過ぎてお店をたたんでしまうはめになるのですが、その贔屓の関取(渋谷天外)は旦那様を発奮させるために、わざと恩情を押し殺して冷たい言葉を投げかけるのです。それを知らずに旦那様は見返してやろうとがんばって商売に打ち込み商売が軌道に乗ってきます。そこに関取がお店に現れ陰ながら旦那様の成功をお祝いしようと思うのですが、旦那様は関取を憎んで罵倒します。しかし、自分が商売をやり直すために借りたお金は、実は関取が密かに出していたこと、餅をお客様に買ってくれるように頼みまわっていたことを知ると、関取の本当の心を知って泣き崩れるのです。

 判っているのですが、観ているうちに涙がこぼれてきます。
直美さんは旦那さんの奥さん役で脇役でしたから笑いはそんなに取れない役でしたが、しっかりとお芝居を支えていました。そして小島慶四郎さん、相変わらず軽妙で味わいがあります。また、その他の出演者もみ〜んな喜劇をよく解っていて丁寧に品格を持ってお芝居してました。だから気持ちよく安心して見られるのです。直美さん、松竹新喜劇のみなさん、いつもいつも楽しい舞台をありがとう!東京に来るのを楽しみにしています。今度は夜の部を見に行きたいです。

 それとお隣の席に居合わせた方、幕間にお話しを付き合っていただきましてありがとうございました。お陰様でひとりさみしくではなく、心が温かくなってお芝居を観ることができました。このコーナーをつい見ていただきたく、ずうずうしくも名刺をお渡ししてしまいましたが、やさしくしていただき、尚且つとても綺麗な女性でしたので、心ウキウキで家路に着くことができました。♪・・・そして家に着くと、佐知子さんにそっくりな元気で男らしい女房が私を迎えてくれるのです。あ〜っ!恐怖〜!(笑)