コラム目次に戻る





藤山寛美没後20年「六月喜劇特別公演」



 6月16日、新橋演舞場にて、藤山直美さん、西郷輝彦さん、松竹新喜劇の皆々様出演の「藤山寛美没後20年六月喜劇特別公演」を観てまいりました。今年2月、大阪松竹座でも公演されましたが、演目の半分は違う出し物です。私は大阪で昼の部を観てきましたので、今回は夜の部の2本、「大人の童話」と「丁稚の縁結び」の観劇です。前回よりは物語の内容が少し物足りない感じでしたが、お芝居は充分楽しめました。

 最初の「大人の童話」はこんな物語です。、小料理屋の娘・妙子(藤山直美)が以前の旦那と別れて板前の福造(西郷輝彦)と結婚します。男の子供もできて7歳になりました。お店は借家で経営は苦しいですが、父(小島慶四郎)といっしょに家族皆でがんばって働いていました。
ある日、元旦那が生死の境にいるという知らせが妙子の耳に入りました。別れたとはいえ死に目に立ち会ってあげたいと思うのですが、現在の夫である福造に知られたら大変、ということで諦めます。しかしそのすぐ後、元旦那が亡くなり大変なことを知らされます。息子に遺産として1億円残されたと。実は息子は元旦那との子供で、福造の本当の子供ではなかったのです。まわりの人間と父は1億円に目がくらみ、1億円は宝くじで当たったものにして貰ってしまおうと企みます。
しかしそれが全部、福造にバレてしまい、福造はやりきれなさに飲めない酒を無理して飲んで、騙された悔しさと悲しみに打ちひしがれます。そうして福造は家を出ていく決心をします。しかし、子供が必死になって父親を止めます。振り払っても振り払っても子供は福造に食らいついて「お父ちゃん、行かないでー!」と叫びます。福造は子供の必死の形相を見て抱きしめます。すべてを受け入れ、父親をやり直すことにしたのです。妙子は申し訳ない気持ちと感謝の気持ちで泣きながら福造を拝むのでした。

 人がお金に目がくらんで右往左往する姿を面白可笑しく表現していました。また、子はカスガイ、たとえ実の息子ではなくとも、赤ちゃんのときから育てて自分を慕ってくる子供がかわいいのは人の情でしょう。涙の舞台なので感動するはずなのですが、手放しで祝福することができませんでした。子供にとっては良かったと心和むのですが、福造や妙子の心の内を考えると「この先大変だなあ」と、ちょっと心配してしまう設定だったからです。でも人は考えようで幸せにも不幸せにもなるわけで、前向きに生きてくことが大切だと感じ取る方がいいのかもしれませんね。

 二つ目の「丁稚の縁結び」は直美さんが一番得意としている役ですから、もう笑いの連続で満足して帰れました。物語は、薬問屋に奉公にきている丁稚(藤山直美)が、旦那様(小島秀哉)や娘とその恋人のために縁結びの大活躍をするというお話です。
旦那様は本家の息子に分家である自分の娘を乞われて嫁がせれば幸せになるだろう、と、勝手に結納まで済ませてしまいます。その本家の息子は白塗り顔の弱々しい息子で、その親である本家の旦那も偉そうな人だったので、丁稚の由松はこの婚礼には絶対反対でした。口の軽い由松は、「本家の息子は気のぬけた湯豆腐みたいな馬鹿息子だ!うちのお嬢さんはそんな奴とはぜったい結婚しない!」と、こともあろうに本家の使いの者に話してしまいます。
その頃、昔ここで働いていた元使用人の庄吉が帰ってきます。庄吉はここの娘・お咲と好いつ好かれつの関係だったのです。しかし庄吉は旦那様の顔を立てて身を引こうとします。その後すぐ旦那様はお咲の兄からのすべての事情を書いた手紙を読んで、娘の本当の気持ちに気付きます。しかし結納を済ませてしまった手前、先方に言い出せません。そこで活躍するのが直美丁稚!旦那様をなんだかんだ言い伏せて、ついに結納解消と娘と庄吉の結婚許可を決心させます。そこに「棚からボタ餅」、先方の本家から怒りを持って婚儀の断りが言い渡されます。丁稚由松の軽口が功を奏して、めでたしめでたし!

 直美さんの丁稚役はまるで水を得た魚です。世界一アホのように見えるが「つっこみ」が鋭い!共演の旦那様役である小島秀哉さんをつっつくのですが、旦那さまと丁稚という関係を分かっていながら旦那様に横柄な質問をする直美さんの会話術は、お父様の寛美さんを彷彿とさせます。あのアホの演技は誰もまねできません!まして女らしい演技をしっとりとやっていたかと思うと、鼻くそをほじりながら「今、便所の火事なんや!」「なにそれ?」「や・け・く・そ!」とおしりをペンペンしながら去っていく彼女を見るにつけ、心の底から感心してしまうのです。騙されて気持ちいい!泣いて笑って2時間半、結局笑いながら泣いている自分がいました。

 最後に直美さんが独りで舞台挨拶をしてくれました。「父が亡くなってからもう20年も経ってしまいました。」と言ったあと、後ろにある寛美さんの大きな写真を見ながら「やっぱり顔が似ている」には大爆笑!「お忙しい中、わざわざ起こし頂きまして誠にありがとうございました。」と、心をこめて言われたのは涙が出るほど嬉しかったです。父上の寛美さんが、生前、新橋演舞場にチケットを求めて並ぶお客様に、7月の暑い最中にもかかわらず紋付き袴姿で「うちわ」をサービスで配ったことがあったそうですが、やはりお客様へのサービス精神はキチンと受け継いでいるようです。





館内に掲示させていた寛美さんの写真の1枚。表情といい仕草といい
本当に直美さんにそっくりです(笑)