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「さくら橋」
 
 昨日、新橋演舞場で、久し振りに藤山直美さんのお芝居を観てきた。「さくら橋」というお芝居だ。

 舞台は戦後間もない東京・浅草。日本橋の呉服問屋で女中奉公していた河村花(藤山直美)が、若旦那の三杉喬(たかし)(市川月乃助)と恋に落ちてお腹に子を宿していたが、喬は昔の婚約者と駆け落ちしてしまう。悲しみに暮れる花(藤山直美)が川に身投げしようとしたところで助けてくれたのが金貸しと質屋を営む女主人・丸井かね(加賀まりこ)だった。かねは、「身投げは子供を無事生み落としてからでも遅くない」と、花を自分のお店に連れて行き面倒を見てくれたのだ。

 その後花は持ち前の明るさで厳しさに負けずかねの片腕として店を切り盛りするようになった。そして生まれた子供・桃子(安達祐実)は成長して高校生となり、かねを母と呼び、実の母である花のことは「おばさん」と呼ぶようになり、この3人の不思議な親子関係が人情喜劇の骨格になる。自分を捨てた男・喬には再会したが、何回も騙されて結局はお金を取られてしまう。それでも彼を忘れられない女心をずっと持ち続ける花。そして月日が流れスカイツリーが完成した現代、亡くなったかねの亡霊に感謝されて心から喜ぶ花、昔騙された喬に再会して心から謝られる花がいるのだった。

 原作は新派のお芝居らしく物語は人情味溢れるものだが、実際の舞台は喜劇に仕立てるために多少無理が見られた。人情喜劇は泣いて笑うのが気持ち良いが、今回は泣かせるのと笑いを取る場面が並行線をたどってしまい融合度が足りない、つまり「泣き笑い」にたどり着けていない印象だった。もちろん直美さんの存在自体が喜劇で、彼女はとても上手なのだけれど、物語の進行と感情の紡ぎ合いが有機的にできていなかった感じだ。簡単に言うと、もっと脚本と演出が良ければ、もっと面白くなったと思う。

 どうしても以前観たお芝居の印象が残っていて、直美さんの真骨頂は「泣き笑い」だ。それはまさに泣きながら笑う、笑いながら泣いてしまうお芝居だ。今回は、少し涙が出て、少し笑った。本当はうんと泣いて(泣くのを我慢しても溢れてしまう涙)とお腹の底から大笑いしてしまう笑いがなかった。ベンガルは相変わらず面白かったが・・・。直美さんはもう少し違う人と組んで冒険するか、お父さんのやっていたお芝居をもう一度作り直すか、岐路に立っていると思う。また、大黒柱になれる男優さんと組むことが必要だ。勘三郎さんが亡くなって、特にそう感じる。期待しているので、次回、喜ばしてほしい!