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小金井信宏 著
「火神派ではなく”火神派的な”
医案解説集」を読んで
 
 

「火神派」とは、今から160年ぐらい前に、中国の四川省に在住した「鄭寿全」氏を開祖とし発展してきた学派です。中国伝統医学の「傷寒論」(紀元200年頃)を基礎に、病態の診断を「陰虚」と「陽虚」に分けて、特に「陽虚」の範囲と理解を広げました。治療には「附子・乾姜・肉桂」というすごく温める生薬を多用したので、「火」を「神」のように上手に使うということでその名が付けられました。しかし、「火神派」の弟子たちが後を継ぐ中で、使用する附子の量が桁違いに増えてしまい、「元祖・火神派」は誤解を受けるようになってしまいました。

日本でも10年ぐらい前から一部の漢方医が取り入れるようになり、私の先生も78年ぐらい前から講義でお話するようになりました。その「火神派」を日本に紹介し、「鄭寿全」氏の本を翻訳・解説した人が「小金井信宏」という方です。この方はちょっと変わっている方で、1966年、東京に生まれて、音楽大学の作曲専攻を卒業し、その後「シュタイナー医学」や「気功」を通じて「中医学」に興味を持ち、中国北京市に約10年間留学、「国立北京中医薬大学」の学部・大学院を卒業して帰国し、「中医師」「中医学修士」でもあります。

 小金井氏は今まで火神派の開祖「鄭寿全」氏の編註を2冊発刊してきました。それは「火神派」の理論・実践を細かく紹介したもので、考え方を理解するにはとても分かりやすく紹介されていたのですが、実践例は私たちが経験したことがないような症例と治療薬だったので、私たちが真似をするにはややかけ離れた印象でした。さらに、使用する附子の量が多量だったこともあり、考え方は理解できるけど店頭では実践できない感じだったのです。

しかし今回発刊された「火神派ではなく“火神派的な”医案解説集」は、まさしく火神派ではない医師たちの症例を、火神派で使用する処方ではない処方においても、すべて「火神派的」に分かりやすく解説してくれたことが革新的だったのです。つまり、「火神派」の考え方の本質を理解するうえでは最高の喩え話として成立させているのです。さらに、現在私たちが普段店頭で使用しているエキス剤の漢方薬を「火神派的に」うまく利用して使う方法を提示していただきました。表題にもあるように、【「元祖・火神派」の方法を日本で活かすために提案】その通りの内容でした。

これはたいへんありがたいことで、今まで疑問に思っていたことが、霧が晴れるように理解できたのです。今までの「伝統的な中医学」と新しく始まった「火神派」が融合した感じです。もちろん店頭での実践ではまだまだ試行錯誤が必要ですが、少なくとも「火神派」の精神・哲学をポピュラーなものにする第一歩になったことは確かです。小金井氏には感謝の気持ちでいっぱいです。なんとかこのご恩を、店頭でお客様に返して行きたいと思っています。