「扶陽学説」(火神派)の素晴らしさ



  ◆現代にマッチした陽主陰従の考え方

 
「扶陽学説」いわゆる「火神派」と言われる学派が現れたのは、今から160年ぐらい前、中国の四川省で、鄭寿全(欽安)が開祖です.。鄭氏の認識は徹底した「陰陽(八卦)学説」に元づいた弁証論治でした。「陰陽学説」とは、宇宙・大自然・人体を陰と陽の関係で物事の成り立ちを説明し、病気の成り立ちを「陰虚」と「陽虚」に分けて考える医学です。「弁証論治」とは、病気になった原因としくみを解き明かし、その原因としくみに応じた治療をほどこすことです。

 中国の医学は大昔から陰と陽の概念があり、現在の中医学でも陰と陽の概念はそれほど変わりませんが、鄭氏が説いた「陰陽学説」の特徴は、さまざまな陽虚症を包括する「弁証論治」の体系を作ったことにあります。つまり、「陽虚症」の意味を広げたのです。その最たる考え方のひとつが「陽主陰従」です。中医学では「陽」は機能や熱エネルギーのことを指し、「陰」とは物質・血液・体液等を指します。今までの中医学では「陽」と「陰」は同等と考えられてきましたが、「扶陽学説」では「陽」が「陰」を作り、「陽」が「陰」を運ぶので、まず「陽気」が大切である、と説きました。それを例えれば、料理をしたり、ご飯を食べて消化・吸収・代謝・運搬するときに、熱量が足りなかったらうまくいかないということです。作物を作るとき、土と水は必要ですが、太陽エネルギーがないと育たないことに似ています。

 現代中医学の認識では、一般的な「陽虚証」は、エネルギー不足と冷えまたは顕著な水の停滞を指しますが、鄭氏の考える「陽虚証」には、これに特殊な陽虚証も含まれていました。それは「真陽発病」と言われるもので、「扶陽学説」の二つ目に重要な考え方です。これは、からだの陽気が足りないために、弱った陽気がコントロールを失って勝手に動き回ってしまう現象を言います。この時に、陽と陰は離れてしまい、いっしょに働けなくなってしまいます。バラバラになった陰と陽がからだの色々な部分に発露して障害を与える状況が「真陽発病」です。弱った陽が追い出されてしまうので、まるで熱があるような症状が出たり、働きを失った体液があふれ出たりします。

 この一番典型的な疾患が「アトピー性皮膚炎」です。アトピー性皮膚炎は皮膚が紅く、乾燥し、痒くなるので、一見原因は「熱」と「乾燥」に思えます。だから今までは熱をさまし、潤いをつける治療が中心でした。症状に対して手当するのである程度は効果があるのですが、病気の原因に対してはお手当していないのでなかなか完全には良くなりませんでした。しかし、扶陽学説では、アトピー性皮膚炎は「陽虚」が原因としてとらえるので、治療法もからだの芯や表面を温める治療法を用います。赤くて痒いのに温めたらかえって悪化しそうですが、驚いたことにこれで改善することが非常に多いのです。アトピー性皮膚炎は現代病です。昭和40年代以降、冷蔵庫の普及とともに増加してきました。もちろん、自然界には存在しないアレルギー物質が増えたことも一因かもしれませんが、扶陽学説で良くなることを見ると現代人の陽気不足は明らかです。

 鄭氏の書物の訳書を見ると、陽虚の治療で救われた患者がたくさんいたことが分かります。もちろん陰虚の人も少ないながらいるわけで、キチンと対処すれば良くなります。実は私の女房のお母様(87歳)が「心筋梗塞」と「心不全」を併発して緊急手術をしました。年齢から見て最悪の事態は覚悟していましたが、奇跡的に助かったのです。それは具合が悪くなる前に「陽気」を補う漢方薬を飲ませていたのです。そして入院中も漢方薬を飲ませたのですが、どんどん回復し退院することができました。家に帰ってきてからは漢方薬を1日3回飲ませました。そうしたら、驚くほど元気になり、自分でご飯を食べられるようになり、補助を受けながら立てるようになってきたのです。人間の生命力の根源は陽気の力だということを改めて体験することができました。

 もちろん、漢方医学は今までの中医学も素晴らしいですし、それで改善する人もたくさんいます。だから、両方を上手に使い分けることができたら一番良いでしょう。さらに、西洋医学でカバーできない部分があれば、それを充分補完できると思われます。
                             

 
              
                              

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